博物館実習報告(2016年度)
文部科学省により示された「博物館実習ガイドライン」をうけ、本学における博物館実習では、生物系、物理・化学系、地学系、情報・工業系、人文・社会系の5分野5クラスのにわたる実習生の専門分野に沿った実習が行われています。また、生物地球学部では独自に専門分野に応じた野外博物館実習Ⅰ~Ⅹが開講されています。
実務実習
生物系クラスでは、まず春学期に博物館資料論や自然史I、II などの講義で学んできた動物標本や植物標本の採集法、乾燥標本、液浸標本、骨格標本、模型、レプリカなどの作製法、標本の保管・整理法などについて実習しました。そのほかのクラスでも専門分野に応じた実務的な実習が行われました。
館園実習
館園実習は、主に夏季休暇中に19 館園と2研究機関で5 ~ 10 日間程度の日程で行われました。実習生の多くは、短い間でしたが博物館のスタッフの一員として、標本の整理や管理だけでなく利用者の接遇など、充実したプログラムを経験しました。安佐動物公園、池田動物園、大分マリーンパレスうみたまご、王子動物園、岡山理科大学自然フィールドワークセンター、倉敷科学センター、倉敷市立自然史博物館、五月山動物園、須坂市動物園、玉名市立歴史博物館、つやま自然のふしぎ館、とくしま動物園、徳山動物園、とべ動物園、のいち動物園、半田山植物園、東山動物園、人と自然の博物館、松江歴史館、および備前市教育委員会の先生方には、館・園務のお忙しい中、実習生にご指導いただきました。この場をお借りして感謝申し上げます。
展示実習
平成28年度秋学期には、実習生25名が展示を制作し、11月3日に倉敷市立自然史博物館で開催された「第16回自然史博物館まつり」において発表しました。当日は天候にも恵まれたせいか、1万人を超える方々が来館しました。実習生が製作した展示や解説は、多くの来館者から好評を得ていました。
平成28年度館園実習の感想
安佐動物公園
理学部動物学科 門那 智恵
私は、広島市安佐動物公園で5 日間の学芸員実習を行った。担当動物は、クロサイ、マンドリル、パタスモンキー、サカツラガン、ユーラシアカワウソなど、さまざまな動物種を担当した。実習中での1 日の主な活動として、初めに、開園時間までに動物を展示場に出し、各屋内獣舎の清掃を行った。その際に、普段と異なる点がないかを観察した。次に、清掃をしながら、「まいにちどうぶつ解説」を行うために巡回をした。最後に、閉園時間になる前は、屋内獣舎に餌を用意し、閉園時間になってから展示動物を各獣舎に移動させ、展示場を清掃した。また、展示されていない保護された動物の飼育も同様に行った。学芸員実習生のための講話では、動物園の役割や歴史などについて学んだ。そして、「私の考える獣舎」というタイトルでプレゼンテーションもした。A4 の紙を用いることが条件で、対象動物は自由に決められたため、飼育担当動物の1 つであるクロサイに関して発表した。
池田動物園
理学部動物学科 里見 春奈
5 日間池田動物園で実習をさせていただき、様々な動物の飼育、エサ作り等させていただいた。5 日間の中で、バクの飼育舎の掃除・エサ作りを2 度行ったが、担当の方が別々であり、それぞれのやり方で教えていただいた。飼育員の各々のやり方があることや、それぞれのその動物への配慮の仕方によって、飼育環境の整え方やエサの切り方等が変わってくることを知ることができた。池田動物園にいるバクは高齢なため、切る大きさに配慮してエサ作りを行った。硬いエサは小さめに切るが、柔らかいものやバクの好物のものはあまり細かくはせず満足できるように与えてあげたい、というお話を聞き、体調とともに動物の好き嫌いなど動物の多くのことを観察して、その動物の気持ちを考えて飼育が行われていることを強く感じた。その他にも飼育員の方が動物のことを観察し、エサ作り・環境作りを考えている姿を多く見せていただいた。実際に動物園の飼育業務を経験させていただく中で、動物の飼育を行う際に考えていくこと、その姿勢などを学ばせていただいた。この実習で考えたこと、感じたことを今後に活かしていきたい。
大分マリーンパレスうみたまご
理学部動物学科 長村 麻央
つくみイルカ島での博物館実習を通して、動物園・水族館で普段私たちが見ている業務はほんの一部であり、利用者の目に入ることのない業務がいかに多く大変であるか身をもって知ることができた。特に毎日の給餌の準備では、作業場の清潔さを保つことや、形のきれいな魚を、摂取エネルギーも考慮してオスだけを選別するなどのことを徹底して行っていた。直接動物たちの口に入るものだからこそ最も重要な業務であると感じた。また博物館の役割の一つである教育活動の面でも、様々な工夫がされていた。ただ動物の特徴等を述べるのではなく、より近くで実際に動物を観察しながら同時に解説することで、来館者の関心を促し動物の魅力を最大限引き出した展示を行っていると感じた。学芸員として来館者に展示動物の理解を深めるための手法を工夫と、そのための幅広い知識を身につける必要性を感じたと同時に、生き物を扱う上で動物たちの毎日の体調管理も重要な業務であると思った。
王子動物園
理学部動物学科 江本 喜美
神戸市立王子動物園での実習は、この実習でしかできない貴重な体験ができ、とても有意義な二週間だった。飼育実習では、動物たちの体重測定や録画での行動観察など徹底した体調管理を目の前で見ることができた。また、爬虫類の展示室にあるライトの微妙な色の変化など小さなことにも気付き共有するといったチームワークの重要性を感じた。サマースクールや歯型・足型教室では、小学生を対象としているため危険予測や当日のシミュレーションを何度も行った。会場設営などの事前準備はイベント自体にかかる時間よりはるかに多くの時間を費やしたが、それでも当日は予期せぬ事態が多く、一度計画を立てても別の視点から計画を見つめ直すことの大切さ感じた。どんな小さなイベントにもその裏では多くの時間がかかっていることを体感することができた。この実習を通して、学芸員としての使命や生きた動物を展示する動物園のあり方を学ぶことができた。
ライフパーク倉敷
理学部生物化学科 田中 麻以
私は、このたびの実習を通して博物館での教育について学んだ。科学センターでは子供達に理科の勉強を楽しく教えていると思っていたが、実際は子供達が自分で勉強をする機会を与えることを目標としていることがわかった。そのため、科学センターでは科学の法則を教えようとするのではなく、科学に興味を持たせる印象的な出来事を子供達に与え、能動的に知識を得られるような解説をすることが大切である。具体的には、子供達が科学に触れる機会として科学実演があげられる。私は、子供達に向けて科学実演を行うなかで、目や耳でわかりやすい内容で解説を言い過ぎてはいけないと感じた。科学について知ってもらいたいという思いから様々なことを説明してしまいそうになるが、単純な説明に留めて反応や現象に関心を持ってもらうことが必要である。この科学実演を行った経験から、大学生活のなかでも自分の卒業研究の内容などを人に話すときに、専門用語で長く話すのではなく、印象を与えられることを短く言うようにして説明能力の向上を図っていきたい。
倉敷市立自然史博物館
理学部動物学科 代住 晴羅
地学分野の実習では今まで体験したことのない多くを学んだ。研磨片を観察してみると中には金や、黄鉄鉱、黄銅鉱といった大小さまざまな形の鉱物が含まれており、どれもわずかに光り方が違うだけで区別するのは困難であった。これにはある程度の慣れと経験を要するものであったが、区別できるようになれば、一つの岩石からその地域の地質を把握することが可能になるとのことであった。研磨片の作成では、一つ作成するのにかなりの時間を要した。カーボンランダムを320 番から徐々に落としていき、何度も磨かれ、展示されていることを知り、単に岩石資料といっても多くの時間をかけて作成されていることを初めて知った。また地学標本には鉱物が混在している場合が多く、しばしば生物標本とは異なる形態で登録することは興味深かった。動物分野での展示プラン作成は、おそらく今回の実習で一番頭を使うものであった。課題と改善点を探すと、その多くは予算があれば改善できるものであり、公立博物館ならではの課題を実感することができた。
五月山動物園
理学部動物学科 池田 萌
私は、五月山動物園で一週間の実習を行った。講義ではわからなかった動物園業務を知ることができ、自分の認識の甘さを思い知らされた。例えば、清掃作業の際に土をできるだけ入れないように糞をほうきで掃きとるという単純な作業が、やってみると考えていたよりもずっと難しいことに気が付いた。また、飼育員の皆さんが、常に「動物たちが気持ちよく過ごせるように」と言ったことを考えて作業をしていている姿を見て、一つの生き物の命を預かっている大変な仕事であるということを改めて考え直すことができた。実習の内容は主に清掃や餌作りといった飼育業務であったため、大半の時間は清掃を行っていた。また、ふれあい園が忙しくなる時は補助に入った。その際に利用者の簡単な質問にしか答えられず、動物に興味をもってもらえるチャンスを私が棒に振ってしまったと悔しく思った。飼育員の方に質問をして知識を深めるとともに、自らが常に学びの姿勢をとる事その積極性が何事においても大事になるのだと感じた。今回の実習の体験を今後の活動に生かしていきたい。
須坂市動物園
理学部動物学科 小野澤 綾花
動物園での実習は、飼育員の方々の努力や工夫を知る貴重な機会となった。フンボルトペンギン一つをとっても一日3 回の餌やりと、掃除の他に、プールの水の綺麗さを保つために週に1回半日かけての大掃除が必要であることが理解できた。ペンギンの餌やりイベントでは、実際に食べるところを見てもらい、ペンギンの生態について説明する他に、クイズを出題するなど、参加した人が楽しめて、学べる内容になっていた。飼育員は毎日動物と接しているため、動物の行動に見慣れてしまい、利用者がどのようなことを不思議に思うのかわからなくなってしまう。このため、受けた質問や疑問を大切にしているというお話をいただいた。このような飼育員の方々のお話や動物園利用者からの質問を看板にまとめる機会をいただいたが、簡潔に説明することは難しく、多くのアドバイスを頂きながら、なんとか完成させることができた。
とくしま動物園
理学部動物学科 森口 弥沙
午前の実習は飼育に関係するもので、想像していたよりも大変な仕事であった。また給餌も一部の動物を除いて朝と夕方の2 回に分けて行われる。担当者の数が少ない中で、1 日に行う作業が多いため、効率的に仕事を回さなければ終わらないことがわかった。ゾウの飼育管理では飼育員の号令によりゾウが動くが、これにはゾウとの信頼関係が必要であると強く感じた。日によってはゾウの機嫌がよくないときもあり号令に従わなかったりするので、他の動物とは違った大変さがある。午後の展示品の作成では、私を含めた3 人で主に作業し、各自が能動的に動いた結果、スムーズに進めることができた。動画編集も経験がなく少し不安だったが、無事に完成させることができた。
徳山動物園
理学部生物科学科 山﨑 隼汰
動物園で私たちが普段何気なく目にしている動物たちの解説板は、実際に解説板を作ってみると想像以上に難しいことがわかった。解説板に必要な情報を整理していく中で、何を伝えたいのか分からなくなった。なにを伝えるのか、どんな人に見てもらいたいかなどの構成をしっかり考え、少しでも動物のことに興味をもってもらえるような解説板を作る大変さを肌で感じることができた。私なりに試行錯誤して、納得のいく解説板を作り上げたことは、自身の大きな成長になったと思う。また、飼育実習では、展示場の基本的な掃除から始まり、エサ作り、動物たちの健康チェックなどさまざまな業務を行った。今回は来園者を接客する機会が多く、動物達を見て驚いたり笑顔になっている来園者を見て、私自身もとてもうれしくなり、改めて学芸員という仕事にやりがいを感じることができた。
つやま自然のふしぎ館
理学部動物学科 尾﨑 充宏
つやま自然のふしぎ館での博物館実習では、キャプション(説明文)作成によって、来館者の方に分かりやすい文章を作ることの難しさを学ぶことができた。生物の特徴を子供たちが読んでも難しくないように、限られたスペースの中で分かりやすいレイアウトを考えなければならない。私たちが作成したキャプションが展示に生かされるため、今までの講義で学習してきたことが試されるのである。読みにくいキャプションであれば、貴重な標本であっても来館者の方に伝えることは難しい。キャプションが長くならないように注意し、難しい言葉は書き方を変えるなどの工夫が必要である。最初は多くの手直しを受けたが、次第に文章を作るコツをつかみ、手際よく行えるようになった。学芸員の立場から考えることで、より良い展示に繋げられると感じた。
のいち動物園
理学部生物化学科 山﨑 唯
今回の実習を終えて、現在の動物園では動物園動物を野生動物と同じように扱い、できる範囲でその動物に合った環境づくりを行っていることがわかった。のいち動物公園の特徴である檻を使わない展示場には、周りを堀で囲むなど、来園者側からは見えないが動物が逃げないような仕組みを見ることができた。また、必要以上に動物に触ることはないが、麻酔を使わずに採血などを行うためにトレーニングを行っている姿を見ることができた。しかし、来園者として動物園を見ると、動物園が取り組んでいることに関して知る機会が少ないと感じた。来園者に動物園の役割を理解してもらうためにも、もう少し情報提供の場があればよいのではないかと感じた。また、イベントを企画する際には、飼育係と企画課でアイデアを出し合うそうだが、来園者がどのようなことをしたいかアンケートを取り、可能なら実施するなど、来園者の声に耳を傾けてみるとよいのではないかと思った。
半田山植物園
理学部動物学科 岩木 美祐
私がこの実習を通して最も興味を持ったのは、植物を展示するときの工夫の重要性である。夜咲き植物は、香りが強いものが多いため、その香りを来館者に楽しんでもらうために片側の扉を閉じ、花の匂いが籠るようにした。また植木鉢は花が咲いている側を必ず手前にし、来館者にいち早く花を見つけてもらえるようにした。このような工夫を学び、普段植物園を訪れた際、何気なく見ている植物一つ一つに、学芸員の工夫が施されているということを実感した。またナイトガーデンでは蕾を軽く縛り、来館者が来た時に紐を外し、夜咲き植物が咲く瞬間を実際に見てもらうという展示も行った。植物への興味の薄い子どもが咲く瞬間に歓声を上げたときは、私自身も非常に嬉しかった。どのように展示すれば来館者により植物の魅力を伝えられるかを常に考えながら展示する大切さとおもしろさを強く感じたとともに、学芸員の役割を学んだ実習であった。
東山動物園
理学部動物学科 徳松 笑里
私はこども動物園での実習を担当させていただいた。まず感じたことは、担当する動物だけでなく、幅広い知識が必要だということであった。当初のイメージは実習では獣舎の掃除をしてエサやりをするぐらいのイメージしかなかった。しかし、初日に小鳥とリスの森の木の剪定の補助に携わった時、担当してくださった加藤さんより手に取った木について1種ずつ説明をいただいた。他にも挿し木で植物を増やしていること、オニユリのむかごを植えていることなど、植物についても多くのことを教えていただいた。同じく担当してくださった野本さんには、ただ技術を教えてもらうだけでなく、動物園の飼育員としての大事なことや心得について、自身の経験とあわせて指導をいただいた。なかでも印象的なこととして、動物と担当者との信頼関係のお話があげられる。今回担当してくださったお2人のような様々な知識を持ち合わせた飼育員をめざしたい。
人と自然の博物館
理学部動物学科 石田 伶音
今回の実習で、博物館業務における接遇の重要性が良く理解できた。特に体験型プログラムではたくさんの質問を受けた。その経験から、展示をいかに分かりやすくすることも大切だが、特に体験型プログラムの場合は、会話で来館者の興味を引き、疑問に答えることがより大切であるように感じた。また、体験型プログラムを開催する場合、展示物の取り扱いや保管には十分な注意と人手が必要であることが理解できた。特に子どもを対象に生き物を取りあげるプログラムの場合、無茶な扱いをして生き物にダメージを与えることもあれば、逆に怪我を負わせる可能性もある。そのため、展示物の選定と監視の徹底が必要であることがよくわかった。体験型プログラムは有効な展示方法ではあるが、気をつけなければならないことが増えるので、実施の際には多くの注意を払わなければならない。自然研究グループでは自然観察会を行い、来館者の知的欲求を引き出しそれに応えることの重要性を学んだ。アイヌ文化研究グループではアイヌ資料の有形文化・無形文化の資料の扱い方・整理の仕方を学び、第三者も理解できるような記録の再現性が必要だと学んだ。博物館研究グループでは来館者調査を行い来館者のニーズを把握し、図書館の役割と今後の展開について学んだ。これらの実習を通し、各班で展示製作・発表を行い、学芸員の方々から好評をいただいた。